大判例

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福岡高等裁判所 昭和36年(う)551号 判決 1962年2月26日

被告

藤浦諭

外一名

主文

原判決を破棄する。

被告人両名をそれぞれ罰金壱万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金四百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から壱年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人両名の負担とする。

理由

本件名控訴の趣意は、記録に編綴してある弁護人立木豊地提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原判決は事実を誤認し過失犯における注意義務の釈解に誤がある、と主張する。

しかし、原判決挙示の判示第一、関係の証拠によると、原判示入野小学校では、学校管理の最高責任者は校長であるが、各教室の火気、戸締、清潔、清頓の管理責任は各担任教諭が分担することとなつており、被告人藤浦教諭は五年一組の担任教諭として同教室の右管理責任者であること、同校では、摂氏五度以下のときは、各教室の火鉢に炭火をいれ、弁当ぬくめ器のある教室には、それにも炭火をいれていたが、本件火災当日、すなわち昭和三六年二月一日は温度が摂氏五度以下であつたが、当日は原判示肥前町公民館において学芸会総練習を行うことになつていたので、職員朝会で、火鉢には火をいれず、弁当ぬくめ器にだけ火をいれることとしたこと、五年一組には弁当ぬくめ器がありしかも当日は総練習で教室の全員が不在になるので、右被告人は教室の管理責任者として、木炭の使用状況等について生徒を監督し、過熱等により引火しないよう火気を調節し、発火の危険を未然に防止すべき業務上の注意義務があつたこと、しかるに、右被告人は当日午前七時三〇分頃には登校していたのに、同日午前一〇時一五分頃右教室の弁当ぬくめ器の火鉢の過熱から火を発し本件火災が起きるまで、生徒大浦正利らが週番の生徒が配つて来た火種に宿直室脇にあつたのを持つてきた木炭をいつもの倍量もついで弁当ぬくめ器に火をいれていたことも知らず、また右教室に来てみもしないで、前示の注意義務を尽さなかつたことが認められるのであるから、右被告人は本件火災につき業務上失火責任があるものといわねばならない。なるほど、所論のように、右被告人は右学芸会の照明、放送を担当し、右総練習の前日までにその設備を完了することができなかつたので、当日登校するとすぐ公民館に行き職員朝会にも出席できないことを深川滉教諭を通じて校長に申し出てその了解をえて、午前九時二〇分頃までかかつてようやくその設備を完了したのであるが、午前九時三〇分頃から総練習が開始されると、そのまま引き続いて照明、放送の仕事をして、多忙であつたことは認められるが、原判決挙示の司法警察員作成の実況見分調書に当審検証調書、当審証人山崎勇市尋問調書を参酌すると、右公民館は同校校庭に接続し、校舎との最短距離は約三〇米で、校舎から公民館に通ずるコンクリート敷の通路も設けられていて、事実上同校の代用講堂として使用されており、同校の一部ともいえる関係にあつたのであるから、右被告人は右設備作業中をさしくるか、あるいは設備完了後総練習が開始されるまでの間に、公民館から担任教室を見廻りに来ることは容易にできることであつたのであり、それができなかつたとしても、公民館に来ていた担任の生徒から状況をきいてそれよつて適宜処置することはできたのであるから(前掲挙示の証拠によると、五年一組の弁当ぬくめ器は右被告人が教卓を改造して自作したもので、これまでも弁当風呂敷をこがしたこともあつて、安全を期しがたいしろものであつたのであるから、なおさらそうすべきであつた。)右被告人は担任教室の管理責任を果すことはできたものというべきであり、校長としても、長期にわたる不在のときのように、他に管理者を定めるか、あるいは自らその任にあたるかすべき要はなかつたものといわねばならない。

また、所論のように、五年一組に配当された木炭は一月二八日までに使い果されていたことが認められるとしても前掲挙示の証拠によると、週番の生徒は教室によつて木炭のあるなしにかかわらず一様に火種を配つて来るので、それを見て右被告人自らも職員室から木炭を持つてきてそれをついで弁当をあたためさせたこともあつたのであるから、右被告人としては生徒が火種を配られて他から木炭その他の物を工面して来ることもあると考えるべきであり、そう考えるべきであるとすることは不可能を強いることにはならない。もつとも、所論のように、前示大浦正利は週番の生徒に炭がないと断つたところ、家事室(宿直室脇)から持つて来ればよいといわれて取りに行つた、というのであるから、週番の生徒を監督する週番の教諭、または家事室(宿直室脇)の木炭を管理する校長にも責任がないとはいえないし、また当審証人深川滉、同石田アキヨ各尋問調書によると、担任教諭に支障があると対等学級の担任教諭がその代行をするのが慣例になつており、本件当日も右被告人が公民館で照明、放送の整備をしていて担任の生徒を教室から公民館に引卒することができなかつたので、五年二組担任の石田アキヨ教諭が代つて引卒しており、五年三組担任の深川滉教諭も右被告人が右設備をしていて担任の生徒の引卒をすることができないことを知つており、しかも五年は三組とも弁当ぬくめ器があつて、右両教諭ともそれぞれ自己担任教室の弁当ぬくめ器を点検し火気を調節して出たのであるから、右被告人に代つて五年一組の弁当ぬくめ器も点検しておれば、あるいは本件火災もおこらなくてすんだのではないかとも思われるのであるが、これらのことは右被告人の前示過失責任の有無に消長を来すものではない。

また被告人大浦金恵についても、原判決挙示の判示第二、関係の証拠により認められる判示第二、の事実によれば、右被告人は同判示の業務上失火責任があるものといわねばならない。なるほど、所論のように警備係の職務内容についてはなんら明示の規定もなく、また校長その他の者から具体的な指示もなかつたのであるが、警備係は前掲公民館で行われる学芸会総練習に全校職員生徒が出向いたあと、残留して警備にあたるものであるから、単に児童の管理というにとどまらず、火災、盗難の予防等の業務をも担当するものであることは、右被告人も検察官に対する供述調書において自認し、さらに自分が校舎を巡回した際に弁当をぬくめている七教室に入つて火気を見ておけばよかつたと思う、と述べておるところであり、また条理上当然ともすべきである。(右認定に低触するがごとき当審証人山崎勇市、同鶴田嘉六、同深川滉各尋問調書の供述部分は措信できない。)

記録を精査しても、原判決には所論のような事実誤認ないし法令誤用の違法はなく、論旨は理由がない。

つぎに職権をもつて被告人両名に対する原判決の量刑の当否を考えると、被告人両名とも業務上失火の刑事責任があることはもちろんであるが、さきにも触れたように本件失火の責任を被告人両名にのみ負わすことはいささか酷であるとみられる節もあり、また本件は校舎三棟約五〇〇坪焼失という重大な結果になつているが、それは消火用水施設が不完備であつたためであつて、結果からだけみて被告人両名の刑事責任を量るのは相当ではない。これら記録に現われた諸般の情況に鑑みると、被告人両名に対する原判決の量刑はいささか重きに失して不当であると認められる。原判決はこの点において、破棄を免れない。

よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八一条、第四〇〇条但書に則り、原判決を破棄してさらに判決する。

原判決認定の事実に法令を適用すると、刑法第一一七条の二前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するので、被告人両名をそれぞれ主文第二項掲記の刑に処し、その換刑処分につき刑法第一八条、右刑の執行猶予につき同法第二五条第一項、罰金等臨時措置法第六条、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を各適用する。

よつて主文のとおり判決する。

〔編註〕本判決は前の7の控訴審判決である。

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